Book Room No.009

Book Room No.009 ブックライブラリー

今週の一冊  #301『思いがけず利他』中島岳志/ミシマ社 2021利他行為が文字通り他者を利する行為として、果たして自分を利することを全く度外視して、純粋に他者のためだけに行動することはできるのだろうか。情けは人の為ならず、そんな諺が人口...
06/02/2022

今週の一冊  #301
『思いがけず利他』
中島岳志/ミシマ社 2021

利他行為が文字通り他者を利する行為として、果たして自分を利することを全く度外視して、純粋に他者のためだけに行動することはできるのだろうか。情けは人の為ならず、そんな諺が人口に膾炙しているように、また、コロナ禍において、合理的利他主義という考え方が注目されているように、結局のところ、巡り巡って最終的には自分に利があることを計算尽くで、利己的な(見せかけの)利他行為が横行してしまうのではないか。さらに、利他行為を受け取る側が見えざる負債感を抱いたり、当事者間での無言の支配関係を生み出す事態が発生してしまうのではないか。利他には、その美しく理想的な姿とは裏腹に、偽善、負債、支配といったような負のイメージが常に付き纏い、実現には困難を伴う。著者の中島氏は、この困難な利他の扉を開くためのキーワードとして、利他の本質と考えられる「思いがけなさ」に思いを巡らす。利己を超えた偶然性や他力で突然にもたらされるもの、それに不意に遭遇した際に利他は起動するのではないか。その偶然を呼び込む器となること、そして、起動した利他を循環させていくこと、ひととき利己から解き放たれた世界を夢想する。

今週の一冊  #300『素数たちの孤独』パオロ・ジョルダーノ 飯田亮介訳/早川書房 2013少年の頃、知的障がいのある双子の妹を置き去りにしたことで、心のどこかに消えることのない負い目を抱えたマッティア。一方、少女の頃、スキーの事故で左脚に...
15/01/2022

今週の一冊  #300
『素数たちの孤独』
パオロ・ジョルダーノ 飯田亮介訳/早川書房 2013

少年の頃、知的障がいのある双子の妹を置き去りにしたことで、心のどこかに消えることのない負い目を抱えたマッティア。一方、少女の頃、スキーの事故で左脚に障害を負い、明るく振る舞いながらも、引き摺る足への劣等感にも似た、どこか屈折した心情を抱き続けるアリーチェ。それぞれに暗さを纏いながら少年少女時代を過ごし、そして、思春期を迎えた高校生の頃、ふたりは運命的に出会う。お互い心の葛藤を秘めながら、身体に染みついた拠り所のなさや屈託を抱えていることを敏感に感じ取り、友情とも恋心とも呼べない何かしらの感情によって、ふたりは結びつけられる。運命共同体とも言えるようなふたりの関係は、お互いの痛みを感覚的に、直感的に受容してしまうがために、無邪気にその距離を親密に縮めることはできないが、歳月を経て、国を違えて生活していてもなお、その存在はいつも間近にある。1とその数でしか割り切れない素数に擬えられたマッティアとアリーチェは、哀しいほどに似ていながら、不器用で決して同じ道を歩むことはできない。お互いの存在を意識しつつもそれぞれの進むべき一歩を踏み出す姿は、切ないながらも清々しく輝く。

今週の一冊  #299『岸辺の旅』湯本香樹実/文藝春秋 2012三年間失踪していた夫の優介がある夜、突然、家に戻ってくる。私が優介の好物だったしらたまをなぜか食べたくなって作っていた、その夜に。しらたまを食べながら淡々と失踪について話す優介...
30/12/2021

今週の一冊  #299
『岸辺の旅』
湯本香樹実/文藝春秋 2012

三年間失踪していた夫の優介がある夜、突然、家に戻ってくる。私が優介の好物だったしらたまをなぜか食べたくなって作っていた、その夜に。しらたまを食べながら淡々と失踪について話す優介は、しかし、すでにその体は冷たい海の底で蟹に食べられたと言う。それから、三年間かけて歩いて家に帰ってきたと。そして、その道を遡るようにして優介と私は旅を始める。旅は、優介が立ち寄り一時期を過ごした人々を訪ねる道程でもある。その中には、優介と同じような境遇の人も存在する。死んでいることを本人が気づいているかどうかは別にして、この世にはそういう人が案外いると優介は明かす。生者と死者が同居するこの世界。でも、死者はいつまでも死者のままでこの世に居続けることはできない。なぜ優介は死ななければならなかったのか、その答えを探すように私は優介との旅を続ける。いつか優介も消えてしまうことを予感しながら。死んでいるのか生きているのかも分からないまま、予期せぬ形で突然に夫を失ってしまった私の心の断絶。死者である優介と過ごす時間の中で、心を少しずつ取り戻し再生しながら、私は再び生を歩き始める。

今週の一冊  #298『数学する人生』岡潔 森田真生編/新潮社 2019世界的な数学者にして、その枠にとどまることなく、自分とは何か、生きるとは何か、情緒とは何か、深く静かに思索し続けた人。岡潔氏は、研究生活に世間を持ち込まない姿勢を徹底し...
18/12/2021

今週の一冊  #298
『数学する人生』
岡潔 森田真生編/新潮社 2019

世界的な数学者にして、その枠にとどまることなく、自分とは何か、生きるとは何か、情緒とは何か、深く静かに思索し続けた人。岡潔氏は、研究生活に世間を持ち込まない姿勢を徹底し、孤高の研究者として揺るぎない信念を貫く一方、後年、執筆活動を通じて自身の思索を余すことなく世間に発信した。新聞の連載にあたっての冒頭、「私はなるべく世間から遠ざかるようにして暮らしているのだが、それでも私なりにいろいろ感じることがあり、世間の人に聞いてほしいと思うこともある」と綴った。本著の編者で自身も数学研究者である森田氏は、序文の中で、いま岡潔を読むことの意義について、次のように語る。生きることが喜びである、そう素直に感じられる世界の建設を願って止まなかった岡の思想に触れること。先行きの見えない現代にあって、力強く生を肯定する岡の言葉にはそっと背中を押してくれるような力があるはずだ、と。深遠な思想観を平易な言葉に乗せて伝える岡の語り口は、時に芸術家のごとく時に哲学者のごとく、はたまた宗教家のごとく、えも言われぬ普遍性と情趣を纏いながら、耳を傾ける者にその意を届ける。

今週の一冊  #297『新・ムラ論TOKYO』隈研吾 清野由美/集英社 2011建築家・隈研吾氏がここで唱える「ムラ」の概念は次のようなものである。公共建築や住宅建築において「空間の商品化」が急速に進められ、グローバル規模で都市化が進展した...
21/11/2021

今週の一冊  #297
『新・ムラ論TOKYO』
隈研吾 清野由美/集英社 2011

建築家・隈研吾氏がここで唱える「ムラ」の概念は次のようなものである。公共建築や住宅建築において「空間の商品化」が急速に進められ、グローバル規模で都市化が進展した。その過程で都市以前の(空間が売り買いされずそこにあり続ける)村は破壊されてきた。そして、行き過ぎた都市化はリーマンショックの端緒になるなど、自壊の可能性を孕み、都市以降のムラを生み出す新たな土壌となっている。そこでは、空間の商品化から距離を置き、場所と密着した暮らしが息づいている。一見、都市のような外観でもムラは存在しているし、さまざまな場所で人々はムラを築き始めていると隈氏は示唆する。本著では、東京の下北沢、高円寺、秋葉原、そして長野の小布施の地を実際に訪ね歩き、ムラ的な現状を見て回る。ムラとは人を救う装置であり、要するにかつての村における血縁や地縁のような(そのしがらみから人は逃れたいのかもしれないが)、人と人とのネットワークである。社会システムと密接に関わっている建築の視座から届けられた、安心できる生活や多様な生き方を支えるための共同体の再発見。

今週の一冊  #296『聖なる怠け者の冒険』森見登美彦/朝日新聞出版 2016黒いマントを羽織り、かわいいタヌキのお面をつけた怪人、その名もぽんぽこ仮面。迷子を助け、暴れる酔っ払いを打ち倒し、夫婦喧嘩の仲裁を買って出る、そんな正体不明、神出...
07/11/2021

今週の一冊  #296
『聖なる怠け者の冒険』
森見登美彦/朝日新聞出版 2016

黒いマントを羽織り、かわいいタヌキのお面をつけた怪人、その名もぽんぽこ仮面。迷子を助け、暴れる酔っ払いを打ち倒し、夫婦喧嘩の仲裁を買って出る、そんな正体不明、神出鬼没の正義の味方が京都のまちを駆け回る。一方、とある会社の社会人2年目の小和田君は、何にもしないで家でゴロゴロする週末が至福、と豪語する筋金入りの怠け者。そして、静かな週末を切望する小和田君のもとにぽんぽこ仮面が現れ、こともあろうに彼をぽんぽこ仮面の後継者に指名する。後継者など全く持ってナンセンスと拒否する小和田君の思いとは裏腹に、ぽんぽこ仮面を巡る冒険物語が何やら動き出していく。充実した週末の計画に勤しむ小和田君の職場の恩田先輩とその恋人、桃木さん。ぽんぽこ仮面を追う怠け者の浦本探偵と絶望的に方向音痴な助手の玉川さん。職場の上司の後藤所長に、五代目と呼ばれるアルパカそっくりの謎の組織の首領。ぽんぽこ仮面と小和田君を取り巻くひとクセもふたクセもありそうな登場人物たちが、祇園祭で賑わう京都のまちで繰り広げる冒険譚。果たしてぽんぽこ仮面の正体とは。小和田君を待ち受ける運命とは。森見ワールド全開。

久しぶりのぶそん市に出店。
06/11/2021

久しぶりのぶそん市に出店。

今週の一冊  #295『本当はちがうんだ日記』穂村弘/集英社 2008今はまだ人生のリハーサルだ。本番じゃない。著者の穂村氏はあとがきでそう切り出す。人はときに、現状の自分に関して理想とのギャップを認めたくないとき、知らず知らずのうちに外部...
24/10/2021

今週の一冊  #295
『本当はちがうんだ日記』
穂村弘/集英社 2008

今はまだ人生のリハーサルだ。本番じゃない。著者の穂村氏はあとがきでそう切り出す。人はときに、現状の自分に関して理想とのギャップを認めたくないとき、知らず知らずのうちに外部環境にその原因を求めてしまったり、そもそも現状は仮で、この先の未来にいつか本当の人生がやってくるのだと希望的観測を抱く、そんな態度を取ってしまう哀しい生き物だ。似たような物言いとして、まだ本気出してない、と言うのもあるだろう。そうして、これが本番だと思える人生がやって来ることもなく、いつまでも本気を出さないままに時間は着実に流れていく。穂村氏は、ある日、鼻から引き抜いた白い鼻毛を見て恐れ慄く。リハーサルと思い続けて数十年、まだ何も始まっていないのに。そして、色鮮やかな人生を待つのをやめ、ぐちゃぐちゃな色でも本番の人生を生きることを決意する。歌人として活躍する穂村氏の綴る日常の可笑しさは、自意識のかたまりの為せる故だ。でも、それは具体的な事象は違えど、案外似たような思いを抱いている人は少なくないに違いない。そんな、ちょっと過剰な自意識のやり場に困っている人に(もちろん、そうでない人にも)心地よい穂村流エッセイ。

今週の一冊  #294『夜に猫が身をひそめるところ』吉田音/筑摩書房 2006突然家にやってきた小さい黒猫が夜の散歩に出かけて、いつも何やらおかしなものを持って帰ってくる。16個の青いボタンとか、古い釘とか、吸いかけのゴールデン・バットとか...
10/10/2021

今週の一冊  #294
『夜に猫が身をひそめるところ』
吉田音/筑摩書房 2006

突然家にやってきた小さい黒猫が夜の散歩に出かけて、いつも何やらおかしなものを持って帰ってくる。16個の青いボタンとか、古い釘とか、吸いかけのゴールデン・バットとか、「まだ見れます」と書かれたメモと一緒のプリズムとか。クラフト・エヴィング商會の吉田夫妻のひとり娘、中学生の音(そして、彼女はこの本の著者であるようだ)は、両親の友人で、この黒猫が居ついた家の家主である研究者の円田さんとともに探偵局を立ち上げ、その黒猫が夜な夜な訪れる場所について推理を巡らせる。黒猫が持ち帰る小さな物たちは彼らの想像を膨らませ、あるいは本当にそうかもしれない物語へと彼らを導く。そして、そんな彼らの物語のすぐそばで、それら小さな物たちが断片の一部としてきれいに収まる本当の物語が紐解かれていく。もちろん、探偵よろしく推理を働かせる主人公(著者でもあるはずなのだけど)の知ることのない、ほんの近くの世界。黒猫が運ぶ小さな物たちによってつなげられた、交わることのない世界。でも、それは何かのきっかけで、もしかしたらつながるかもしれない世界。ちょっと不思議な、クラフト・エヴィング商會の小さな仕掛け。

今週の一冊  #293『女のいない男たち』村上春樹/文藝春秋 2014喪失、不在。失うこと、いないこと。ここに出てくる男たちは皆何かしらの喪失感を抱いて生きている。多くは身近な女性を何らかの形で失った男たちだ。そして、多くの場合、なぜ失うこ...
18/09/2021

今週の一冊  #293
『女のいない男たち』
村上春樹/文藝春秋 2014

喪失、不在。失うこと、いないこと。ここに出てくる男たちは皆何かしらの喪失感を抱いて生きている。多くは身近な女性を何らかの形で失った男たちだ。そして、多くの場合、なぜ失うことになったのか、その事象は曖昧なまま彼らの記憶の一部となっている。一見、状況は具体性を持っていたとしても(鮮明な映像としてイメージされるとしても)、彼らはその状況を理解し認識することにおいて、漠然と抽象的にしか捉えられない。その喪失感で彼らは、ときにそれまでの生き方を変え、ときに自ら命を絶ってしまう。彼らは一様に、自分のあるいは友人の過去の喪失(それが近いか遠いかの違いはあるとして)を誰かに(ときに自分自身に)静かに語り始める。それは、深く大きい、そして得体の知れない喪失を相対化し清算するための儀式のようでもある。「ひとたび女のいない男たちになってしまえば、その孤独の色はあなたの身体に深く染み込んでいく。(中略)あなたはその色の緩やかな移ろいと共に、その多義的な輪郭と共に、生を送っていくしかない。」彼らのうちの一人は、それがあたかも普遍的であるかのように誰にともなく語りかける。

今週の一冊  #292『今日は誰にも愛されたかった』谷川俊太郎 岡野大嗣 木下龍也/ナナロク社 2019詩人と歌人。言葉によって、作者が感知する世界のイメージを巧みに切り取ってみせる。アウトプットされるフォーマットの違いはあれど(フォーマッ...
12/09/2021

今週の一冊  #292
『今日は誰にも愛されたかった』
谷川俊太郎 岡野大嗣 木下龍也/ナナロク社 2019

詩人と歌人。言葉によって、作者が感知する世界のイメージを巧みに切り取ってみせる。アウトプットされるフォーマットの違いはあれど(フォーマットの違いによる思考回路も違うかもしれない)、言葉(それは文字という視覚情報であり、声という音声情報でもあるけれど)というプロトコルを介して、自分が認識している世界を拡張させてくれる企てに他ならない。本著では、国民的詩人の谷川氏と新鋭の二人の歌人、岡野氏と木下氏による異種交流的連詩が試みられている。読んで字の如く、三人で詩・短歌を交互に連ねていき、レイヤーを重ねるようにその景色を変容させていく。それは映像編集におけるトランジションのように、前の場面を受けてどう効果的に次の場面に繋ぐかの作業のようでもある。場面の転換が緩やかでも唐突でも、そこに予定調和はなく、常に思いがけない世界がもたらされる。4ヶ月余りの共同創作のあと、谷川氏と歌人二人が初対面となった感想戦において、この連詩が紡がれていった軌跡が徐々に浮かび上がってくる。三人それぞれの作品の「読み」と「詠み」が交錯するのを眺めつつ、この連詩が生まれる化学変化を楽しめる。

今週の一冊  #291『計画と無計画のあいだ 「自由が丘のほがらかな出版社」の話』三島邦弘/河出書房新社 2014原点回帰の出版社として、2006年に著者の三島氏が単身立ち上げたミシマ社。会社創立から15年、今も小規模ながらもコンスタントに...
29/08/2021

今週の一冊  #291
『計画と無計画のあいだ 「自由が丘のほがらかな出版社」の話』
三島邦弘/河出書房新社 2014

原点回帰の出版社として、2006年に著者の三島氏が単身立ち上げたミシマ社。会社創立から15年、今も小規模ながらもコンスタントに魅力的な書籍を世に送り出し、従来の出版業界の常識を覆す、書店との直取引という方針を貫く。ミシマ社HPの会社概要のページには、三つの社是(のようなもの)が記されている。ー 1.出版活動を通じて、「世界を面白くする」ことに貢献する 2.読者の方々と「つながる」ことを何よりも大切にする 3.「明るく、面白い出版社」をめざした会社運営を心がける ー 本著では、会社起業から5年間歩んできた道程を彩る(?)個性的なメンバーの様々なエピソードを織り交ぜ創業の経緯を振り返ると共に、ミシマ社設立の核心である原点回帰という意味について、三島氏自身があらためて考察する。それは、編集者が面白いと思った企画について、その「面白い」の熱量を余さず読者に届けるための営みに他ならない。出版のメインストリームは、効率性を優先させるが故にその原点を見失っている。著者は痛切にそう感じ、出版の原点に立ち返り一冊入魂の本づくりを実践し続ける。「自由が丘のほがらかな出版社」のイメージとは裏腹に、ミシマ魂という名の、面白さを届けることへの真摯で熱い魂が一冊一冊に込められている。

住所

中央区千日前1-2-7 Gallery Ami-Kanoko 4F
Osaka, Osaka
5420074

営業時間

月曜日 13:00 - 19:00
火曜日 13:00 - 19:00
水曜日 13:00 - 19:00
木曜日 13:00 - 19:00
金曜日 13:00 - 19:00
土曜日 13:00 - 19:00

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